耶馬渓は、九州に位置する大分県北部を流れる山国川やその支流に広がる景勝地です。この流域に広がる溶岩台地を河川が浸食することで奇岩・渓谷が形成され、山水画のような風景をつくりだしました。その風景は1916年にとある雑誌社が行った読者投票により、「日本新三景」にも選出されました。
耶馬渓は山国川流域に広がる景勝地の総称で、中流に位置する本耶馬渓や、上流の支流域に広がる奥耶馬渓、裏耶馬渓、深耶馬渓などから成り立ちます。流域は広域に及んでいるため各所の移動は車を使うのが主ですが、サイクリングロードも設けられているので自転車を使うのもおススメです。
耶馬渓は古くから多くの文人・画人を魅了し、流域には寺院や石橋、庭園など歴史的な建造物も多数つくられてきました。そして今から約100年前に耶馬渓各所をつなぐ回遊路が完成すると、最初から終わりまで耶馬渓を巡ることができるようになりました。2017年には一枚の絵巻を見るように一続きに巡ることのできるその景観が評価され、日本遺産にも選ばれました。
【耶馬渓各所の見所】
耶馬渓の入り口、本耶馬渓には堂々とした競秀峰が聳え立ち、一の峰から八王子岩まで巨峰や奇岩が約一キロにわたり連なっています。その裾野にある青の洞門は、禅海和尚という僧が約30年をかけて人力で岩山を掘ってつくった通路です。断崖を通る危険な通路しかなかった競秀峰では命を落とす者もいたため、和尚はそれを哀れみこの洞門をつくったのだと言われます。改修作業により洞門の姿は変わってしまいましたが、現在でも当時の通路の一部は残っており、作り手たちの残したノミの跡などを見ることができます。
競秀峰から上流へ500mほど行くと羅漢寺があります。ここには岩山をくり抜くようにしてつくられた空間が随所にあり、合計3700体もの石仏が安置されています。山中にある本堂へはリフトで行くこともできますが、石段を歩いて登ることもできます。道中は急な山道なので、歩くときには身軽な恰好を心掛けて下さい。
秋になって山が紅葉すると、耶馬渓の景色はよりいっそう鮮やかになります。ひときわ鮮やかな紅に彩られるのは、深耶馬渓にある一目八景。展望台からは名前の通り、八つの岩峰が織りなす景色を一望できます。もみじの赤、聳える岩山、足元を流れる山移川。自然が創り出す壮大な景色は、まさに一見の価値あり。紅葉の季節は夜になるとライトアップもされるため、昼夜いつでも景色が楽しめます。
【耶馬渓の巡り方】
耶馬渓は、中津市と玖珠町の二つの市町に広がっているため、各所の移動は車を使うと便利です。また、本耶馬渓から奥耶馬渓に沿うようにメイプル耶馬サイクリングロードが走っているので、自転車で移動するのも気持ちがいいです。サイクリングロードは全長35㎞もあるうえ、そのうち22㎞は昔の鉄道路線を利用した自転車専用道路になっています。風を感じながら、誰にも邪魔されずに走る自転車で日本屈指の景観美を眺めて巡るのもおススメです。
耶馬渓は秋の紅葉だけでなく、春の桜、夏の新緑の時期もまた、綺麗な景色を見せてくれます。自然が作り上げた美しさと人の手が作り上げた美しさとが組み合わさることで深みを増す耶馬渓の風景は、いつ訪れても見る人を魅了してやみません。