「秋月(あきづき)」は、福岡県朝倉市(あさくらし)の北部に位置する旧城下町で、その風情の美しさから“筑前の小京都”と呼ばれています。
「秋月」の町並みは、江戸時代に秋月藩により整備されました。居城「秋月城」は、門や石垣しか残っていませんが、城下町は中心を流れる野鳥川(のとりがわ)の両岸に武家屋敷や町家が集まり、今でも当時の姿をとどめています。古い建物が残る町並みは、1998年(平成10年)に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。
黒田長興が整備した「秋月」の町並み
「秋月」は、九州北部の豪族、原田種雄(はらだたねかつ)が、鎌倉時代の1203年に鎌倉第2代将軍源頼家(みなもとのよりいえ)から拝領し、原田から秋月に姓を改め、秋月氏と名乗ったことから城下町として町が形成されました。竹田氏の時代は17代385年間代続きます。
1587年九州を支配すべく軍勢を送り込んだ豊臣秀吉に対し、当時九州を支配していた島津氏と手を結んでいた秋月氏は戦いに破れ、第17代当主の秋月種長(あきづきたねなが)は日向国財部(ひゅうがのくにたからべ・現在の宮崎県高鍋町)に追いやられてしまいます。そのため秋月城は主がいなくなり、廃城となったのです。
江戸時代に入り、福岡藩主黒田長政(くろだながまさ)は長政の三男黒田長興(くろだながおき)に5万石を分与するように遺言します。そこで長興は、長政を継いで藩主となった忠之(ただゆき)により秋月の地を与えられ、1623年に黒田藩(福岡藩)の支藩として秋月藩が誕生しました。
長興は田や畑の開拓や護岸工事、水路敷設などを行うなど城下町を整備し、「秋月」の発展に力を尽くしました。秋月藩は明治維新の廃藩置県(廃藩置県1871年)まで、12代約250年続きます。
「秋月城」は廃城とともに一部を除いて解体
「秋月城」は、黒田長興が築いた居城です。他の大名のように天守閣を持つような大きなものでなく、居住する館だけのいわゆる陣屋形式の城でしたが、1873年(明治6年)に廃城となり、門などの一部を残して解体されてしまいました。
「秋月城」の大手門だった『黒門』は現在移築され、黒田長興を祀る垂裕神社(すいようじんじゃ)の境内にあります。江戸時代初期の建築です。また、裏門だった『長屋門』は当時のままの位置にある唯一の建物です。『黒門』『長屋門』とも福岡県の有形文化財に指定されています。秋月城の跡地には現在朝倉市立秋月中学校が建っています。
江戸時代の町割りがそのまま残る「城下町」
「秋月」の城下町は初代藩主黒田長興によって町割りが造られ、城から見て近いところに武家屋敷、野鳥川をはさんで対岸に町家が並んでいます。周辺には寺社や下級武士の屋敷が配され、わざわざ鍵型にした道や、町中に縦横に走る水路など、城下町としてよくまとまっています。
現在は古いまま残っていた武家屋敷や町家などは修理、復元され昔の町並みが少し蘇っています。町なかには古民家を使用したカフェや飲食店も営業し、緑あふれる秋月の自然環境とともにその美しい景観が観光客に人気です。
日本で唯一、御影石で造られた「眼鏡橋」
「眼鏡橋」は、野鳥川に架かる御影石(みかげいし)製の橋です。明治時代以前、橋は一般的に木製だったので、洪水などでよく流されてしまいます。野鳥川の橋も同様で、藩としては長い間悩みの種でした。
8代藩主の黒田長舒(ながのぶ)は、本家の福岡藩の命令で長崎の警備を任されていましたが、その時に見た長崎の石製の橋(国の重要文化財「長崎眼鏡橋」など)を見て、秋月にもこれを取り入れようと決意します。1805年に長崎から職人を呼び寄せ、念願の石の橋を着工します。2年をかけた難工事は1807年に完成しましたが、突然崩壊してしまいます。この時病床に伏せていた長舒は、あまりのショックで急逝してしまいました。
壊れた原因は、柔らかい御影石を使っていたためといわれていますが、工事は2年後に再び着手され、1909年に完成しました。橋の材料はやはり御影石ですが、石の欠点を補ってあまりあるほど高い技術で造られていて、現在までも残る日本唯一の御影石の橋となっています。福岡県指定有形文化財です。
眼鏡橋
問い合わせ先:朝倉市教育委員会 文化財係
電話番号:0946-28-7341
上級武士の屋敷「旧田代家住宅」
「旧田代家住宅」は、秋月藩の150石上級武家の屋敷です。428坪の敷地の中に、主屋、土蔵、門、土塀、庭と武家屋敷を構成するすべての要素が昔のまま残っていて、主屋は1815年に再建されたと推定されています。その後かなり増改築されていて、元の姿は少なくなっていましたが、2001年に朝倉市に寄贈されたのを契機に、発掘調査などを施し、江戸時代の姿に復元されています。朝倉市指定文化財です。
旧田代家住宅
問い合わせ先:朝倉市教育委員会 文化財係
電話番号:0946-28-7341
入館料:無料
休館日:12月28日~1月4日
見事な庭園が残る武家屋敷「久野邸」
「久野邸」は、秋月藩の中老を勤めたことがある上級武士の屋敷です。敷地は660坪あり、100石につき300坪あまりの敷地が与えられた武家屋敷としてはかなり優遇されていたようで、石高以上の敷地を与えられていました。
敷地内には茅葺きの主屋、藩主からは拝領の2階屋、離れ座敷、厩、蔵、回遊式の泉水庭園などがあります。
久野家は1979年に屋敷を守ってきた一族最後の方が亡くなり、後継者がなく絶えてしまいました。主のいないまま老朽化してしまったのですが、1993年になって久野家に縁のある久光製薬が秋月観光協会などから依頼を受け、古文書などを参考にできる限り400年前の姿に復元、修復しました。
秋月武家屋敷「久野邸」
電話番号:0946-25-0697
入館料:300円(5歳以下は無料)
休館日:月曜日(日祝日の場合は翌日)、12月下旬~2月末
名産久助葛を200年以上作り続ける「廣久葛本舗」
「秋月」の名産品にひとつに『葛(くず)』があります。江戸時代後半には江戸幕府にも献上されていた逸品です。
当時は京都や大阪では奈良県産の『吉野葛』が圧倒的な支持を集めていて、「秋月」の葛粉は入り込む余地がありませんでした。仕方なく距離的に遠い江戸へ販路を求めます。その品質がそれまで江戸で流通していた葛粉より数段優れていたことから、菓子職人などの間で評判となり、『久助葛(きゅうすけくず)』という名称で大いにもてはやされました。1860年に勝海舟や福沢諭吉などの江戸幕府の使節団を乗せてアメリカに向かった咸臨丸の食料リストに“久助葛粉 4升”とあるほどです。
「廣久葛本舗(ひろきゅうくずほんぽ)」は、『久助葛』を製造した吉兵衛久助(高木久助)が1819年に創業(創業当時は廣田屋)した本葛製造本舗で、当主は代々高木久助を名乗っています。現在の当主は10代目で、秋月の本店は築260年の歴史ある建物です。
「廣久葛本舗」の葛は、秋月本店にある直営店葛茶房「葛の花」で味わえます。葛きり、葛もち、葛ぜんざい、葛湯、葛そうめんなど、本葛100%。できたての葛粉を使った料理は、ここででしか味わえないおいしさです。
廣久葛本舗・葛茶房「葛の花」
住所:福岡県朝倉市秋月532
電話番号:0946-25-0215
葛きり(813円)、葛もち(648円)、葛ぜんざい(915円)、葛湯(545円)、葛そうめん(915円夏季限定 ※価格は2021年3月31日現在)
営業時間:8:00~17:00(ラストオーダー16:30)
定休日:無休
URL:http://www.kyusuke.co.jp/kuzusabou/index.html
基本情報
“筑前の小京都”秋月
住所:福岡県朝倉市秋月
問い合わせ先:あさくら観光協会
電話番号:0946-24-6758
アクセス:
公共交通機関/JR鹿児島本線基山駅乗り換え甘木鉄道甘木駅または、西日本鉄道甘木線西鉄甘木駅下車路線バスで約18分、秋月下車
車/大分自動車道甘木ICから約17分
脚注1:源頼家(みなもとのよりいえ)
鎌倉幕府第二代将軍。父は鎌倉幕府第一代将軍源頼朝(みなもとのよりとも)、母は北条政子(ほうじょうまさこ) 。 1204年北条氏によって伊豆の修善寺で暗殺されました。
参照:幽閉・暗殺された悲劇の鎌倉殿の一生 歴人マガジン
脚注2:島津氏(しまづし)
鎌倉時代から江戸時代まで九州を代表する氏族。薩摩(現鹿児島県)を本拠地として、一時は九州全土を掌握するほどの力を持っていました。
参照:戦国島津氏について 鹿児島県
脚注3:黒田長政(くろだながまさ)
安土桃山時代から江戸時代初期の武将。黒田孝高(くろだよしたか・通称黒田官兵衛[くろだかんべえ]) の子で、豊臣秀吉のもとで父とともに中国征伐,賤ヶ岳の戦,九州征伐などで戦功をたてました。関ヶ原の戦いでは徳川家康側につき、その功績で福岡藩の初代藩主となりました。
参照:黒田長政 コトバンク
脚注4:陣屋(じんや)
江戸時代に郡代、代官、旗本などが任地あるいは知行地に所有した役所のことで、ほかに無城の大名の居館も陣屋と呼びます。
参照:陣屋 コトバンク
脚注5:御影石(みかげいし)
花崗岩(かこがん)質岩石の石材名です。本来は兵庫県六甲山麓(御影地方)に産する花崗岩材名でしたが、現在は花コウ岩だけでなく、閃緑岩(せんりょくがん)、斑糲岩(はんれいがん)、閃長岩(せんんちょうがん)など完晶質の深成岩のすべてを指して用いらています。
石英と長石の膨張率が違うため耐火性にやや劣り、風化にも比較的弱いという欠点があります。
参照:御影石 コトバンク
脚注6:泉水庭園(せんすいていえん)
造園用語。自然の泉を利用するか、人工的に水を引いて、庭園や広場などに噴水、流水、落水、池などを設けたものを指します。
参照:泉水 コトバンク