古都金沢で知られる石川県の南部にある加賀地方は、霊峰白山から流れる手取川が生み出した広大な平野が広がり、昔から米作りが盛んな地域です。代々農業を続けてきた家が多く、築100年以上経つ農家住宅も数多く残っています。
今回は、石川県加賀地方にある昔ながらの農家住宅の特徴や、季節ごとの過ごし方についてご紹介していきます。
昔の暮らしが目に浮かぶ農家の家
今も残っている昔ながらの田舎の家は、しっかりした木造住宅というイメージがあります。その建物を見れば、昔の農家がどのような生活をしていたのか想像できるかもしれません。ここでは、石川県加賀地方の農家住宅の特徴を詳しくご紹介します。
切妻型の大きな瓦屋根
石川県加賀地方の農家住宅の一番の特徴は、広い間口いっぱいにまたがる切妻型の瓦屋根です。切妻型の屋根は、建物の上に大きな本を開いて覆いかぶせたような形をしています。天気の良い日に屋根いっぱいに並んだ瓦を見ると、太陽の光がキラキラと反射して眩しく感じることでしょう。
石川県加賀地方では、冬に雪が降ります。屋根が切妻型となっているのは、雪が屋根に積もらないようにするための工夫でもあります。現在は昔ほど積もりませんが、元々は雪国であり、雪の重みで家がつぶれないようにするためなのです。
「木虫籠(きむすこ)」でプライバシーを守る
「木虫籠」とは、木造の出格子のことです。出窓のように家の外側に取り付けて、家の中が丸見えにならないようにしているのです。格子の一本一本が台形になっているため、外から家の中は見えにくくなり、家の中には格子の間から光が入るため部屋が明るくなるのです。
「木虫籠」は金沢の町家や茶屋街でよく見かけますが、田舎の家でもおしゃれにプライバシーを守るために使われています。
冠婚葬祭は「田の字」の座敷で
昔ながらの家で、続き間の和室を見ることがあります。続き間とは、2つ以上の部屋を壁ではなく障子やふすまで仕切った部屋のことです。障子やふすまには部屋のドアと仕切りとしての役割があります。それぞれ独立した部屋として使うこともできますし、障子やふすまを取り払って一つの部屋として使うこともできるのです。
家の奥には仏間や座敷など4部屋の続き間があり、上から見ると「田の字」のように並んでいます。各部屋の障子やふすまを取り払うと、大きな部屋になります。昔は自宅で冠婚葬祭をしていたため、この「田の字」のお座敷は重宝したようです。
お客様をお迎えする弁柄色・群青色の壁の座敷
大切なお客様が訪ねてきた時には、家の奥にある座敷でお迎えします。石川県加賀地方の伝統的な家屋では、座敷に弁柄色や群青色の塗り壁を施しています。 普段はこの色の壁のことを「赤壁」「青壁」と呼んでいるため、言葉だけだと日本的なイメージとはかけ離れた印象を受けるかもしれません。実際に見ると、日本古来の色使いが施されていることが分かるため、落ち着いた印象の和室に華やかさが加わって、より風情を感じることができるでしょう。
独特な呼び名をする部屋
石川県加賀地方の農家住宅には、地元独特の呼び方をする部屋があります。言葉を聴くだけでは想像ができなかったり、勘違いしたりすることもあります。ここでは、特徴的な呼び名の部屋を2つご紹介します。
その1:ニワ
通常「ニワ」と聞くと「庭」を想像しますが、昔からの農家住宅では、玄関から入った土間部分のことを「ニワ」と呼んでいます。「ニワ」は農作業スペースとして使用されています。建物の内部になるため、昔から雨の日や農閑期でも作業をするために使っていたようです。
その2:オエ(オイ)
家族が集まる居間、リビングルームのことを「オエ(地域によっては「オイ」)」と呼びます。「オエ」は「ニワ」の奥にある広間となっていて、昔から食事や団欒を行う場所となっています。 「オエ」とその奥の座敷は、「帯戸」と呼ばれる木の板の引き戸で仕切られています。帯戸を取り払うと、オエと座敷が一間続きになるため、より多くのお客様を招くことができるようになっています。
田舎ならではの季節ごとの過ごし方
昔の農家では、洋服を衣替えするように、家や庭を季節ごとに変化させていました。これは、現在のように電気や便利なものなどが無い時代に、過ごしやすく生活するための先人の知恵なのです。
夏には障子やふすまを「簀戸(すど)」や「簾(すだれ)」に
夏が近づくと、座敷の障子やふすまを「簀戸」や「簾」と入れ替えます。「簀戸」とは、竹やヨシの茎で編んだ簾をはめ込んだ建具のことを言います。部屋と部屋との間の仕切りとなるだけではなく、簾部分の間から光や風が入ってくるため、見た目にも涼しさを感じられるでしょう。
簀戸を開ける、簾を上げるなどして、縁側の雨戸を開け放てば、風が抜けて気持ちよく過ごすことができます。縁側の軒先に風鈴を吊り下げれば、心地良い音色がより涼しさを感じさせてくれます。
冬は庭の木に「雪吊り」を
石川県加賀地方では、水分を多く含む湿った雪が降ることが多いのが特徴です。そのため、雪の重みで庭木が折れることもあります。 湿った重たい雪から庭木を守るため、冬を迎える前に一本ずつ「雪吊り」を施します。「雪吊り」とは、木に支柱を立て、支柱と木の枝を縄で結んで、木が倒れたり、枝が折れたりしないようにする作業のことを言います。「雪吊り」は、冬の風物詩として、日本の三名園の一つ、石川県金沢市にある「兼六園」でも毎年行われています。
昔ながらの農家の家を見てみたい!
石川県加賀地方には、昔ながらの農家の生活を垣間見ることができる場所があります。
笹で包んだ押し寿司などを販売する「芝寿し」の本店「芝寿しのさと」の建物は、元々石川県白山市の農家を移築再生したものです。その建物内では、作りたてのお寿司やお弁当を楽しむことができます。 美味しいお米を楽しみながら、田舎の生活を垣間見てみませんか。
まとめ
石川県加賀地方には、先人の知恵を大切にしながら生活している家が多く残っています。昔の良さを活かしながら生活している人もたくさんいます。日本の田舎の生活を知るためにも、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。