日本の原風景という言葉で、稲が実っている田んぼを連想する方は多いのではないでしょうか。水田の実りは日本人の主食である「米」を作り出す生産活動であるわけですが、近年この「稲」を使った「田んぼアート」が全国各地で行われるようになりました。 そこで「田んぼアート」の中心地として知られている、青森県南津軽郡田舎館村の「田んぼアート」について、その歴史や見どころなどについて紹介します。
「田んぼアート」とは
「田んぼアート」というのは、水田にさまざまな種類の稲を使って絵を作り上げることを言います。水稲には一般的にご飯として食べる「白米」のほかにもさまざまな種類があり、種類により稲穂や葉の色が違います。田んぼアートではこれらの色を利用して水田に絵を描いていきます。 田舎館村の場合、田んぼアートスタート当初は3種類の稲を使っていたのですが、年々色数が増え、現在では7色13種類の稲を使い、精密な絵を描いています。
「田んぼアート」が行われる場所は?
「田んぼアート」は田舎館村で最初に企画され、成功をおさめたことから、日本全国で広く行われるようになりました。ではなぜ、田舎館村で田んぼアートが作られるようになったのでしょうか。実は田舎館村は日本の稲作の歴史に重要な役割を果たす土地なのです。
田舎館村と稲作
田舎館村は青森県の中部、津軽平野にある村です。青森県は気候が冷涼なこともあって、あまり稲作は盛んな土地とは言われていませんでした。
ところが1981年、国道のバイパス工事の際に弥生時代の水田跡が発掘されました。そこで調査をしたところ、656面にも及ぶ水田跡が発掘されました。この発掘以前は、弥生時代に日本に稲作が伝来しても、東北の北部には届かないと言われていたのがくつがえされたのです。 その結果、この水田跡が出た垂柳遺跡は、現在では弥生時代の稲作文化の北限と考えられるようになり、2000年には国の史跡に指定されました。
「田んぼアート」の歴史
1993年、地域活性化事業の一つとして「村おこし」が行われることになりました。この企画として、田舎館村の村役場の裏にある田んぼに異なった種類の稲を植えて絵を作るという企画が行われました。
当初は青森県のブランド米「つがるロマン」と黄色と紫の古代米の合計3色ではじめたのですが、実際に出来上がって上から見てみると、形がゆがんでしまうなどの失敗もあったようです。
しかし年々使う稲の種類を増やし、コンピュータを使い図柄を作ることで、その絵はどんどん精密化し、それに伴い多くの観光客が田んぼアートを見に訪れるようになりました。 2012年からは役場の東側の第一会場とともに、道の駅いなかだての付近に第二会場も設定され、違う図柄を楽しむことができるようになっています。また2013年からは会場近くに電車の駅が作られ、公共交通機関を利用してのアクセスもしやすくなっています。
「田んぼアート」の一年
「田んぼアート」は6月初めごろに稲を植えるところからスタートします。植えられた稲は気温の上昇に伴って成長していき、それに伴って少しずつその年の絵が見えるようになってきます。
7月半ばになると、稲が育ち、水田に隙間がなくなります。それとともにそれぞれの色がはっきり出てきます。この時期から8月中旬ごろまでが最もきれいに田んぼアートが見られる時期となります。 それを過ぎると稲が実りの時期を迎え、全体に黄色っぽい色合いに変化していきます。10月に刈り取りが行われるまで、田んぼアートを楽しむことができるのです。
「田んぼアート」の見どころ
それでは次に、田んぼアートの見どころについて紹介していきましょう。今述べたように、田んぼアートでおすすめの時期は7月中旬から8月中旬の夏休み時期にかかります。この時期、青森県では各地で夏祭りであるねぶた、ねぷたも行われ、これらと一緒に楽しむ方も多いようです。
「田んぼアート」の会場は2つ
まず、「田んぼアート」の会場から紹介します。田んぼアートの会場は2つあります。
第一会場は田んぼアートのメイン会場と言われる場所で、ちょうど田舎館村役場の東側にある約1.5ヘクタールの水田です。こちらはメインということで、芸術作品や有名なドラマの1シーンなどがモチーフとして使われ、写実的に描かれることが多いです。
第二会場は道の駅いなかだてにある「弥生の里」です。こちらは第一会場に比べると少し小さめですが、アニメなど子どももよく知っている図案が使われることが多く、子ども連れの方にはこちらも人気となっています。 また、第二会場の方には「石アート」といって、色の違う石を並べて有名人の姿を作るものもあり、こちらも人気となっています。
「田んぼアート」の観覧場所もすごい
「田んぼアート」は高いところから見ないと図案がわかりません。先ほど少し触れましたが、最初普通に図案化したところ、斜め上から見たら図案がゆがんでしまったということで、現在では斜め上から見た時にきちんとした形に見えるように作っています。
この「斜め上」の場所ですが、第一会場は田舎館村役場から、第二会場は弥生の里展望所という展望台の上から見るようになっています。
実はこの田舎館村役場なのですが、日本のお城の形になっているのです。この田舎館村役場の東側あたりは14世紀ごろ、「田舎館城」という城が作られました。しかし1585年、大浦為信(後の津軽為信、弘前藩の初代藩主)により攻められ落城してしまったのです。もちろん田舎館役場そのものは近年作られたものですが、そのような歴史が背景にあったのでしょう。
この田舎館城、いや田舎館役場の4階に展望デッキ、6階に天守閣があり、そこから田んぼアートを真下に見ることができます。
また、弥生の里展望所のほうにも回廊があり、第二会場はここから田んぼアートを見ることができます。
「田んぼアート」は体験できる
さて、田舎館村の田んぼアートですが、実は「体験」することもできます。田んぼアートは絵を描くために複数の種類の稲を使っており、機械で田植えや刈り取りをすることはできません。すべて手作業で行われています。
そのため、田植えと稲刈りの時に一般の方の参加を募っており、それに応募することで田んぼアートの作成者の一人になれるのです。
「田んぼアート」体験をする方法
「田んぼアート」の田植えや稲刈りに参加したい方は電話、ファックス、メールなどで申し込みをすることになります。2019年の田植えの場合、GW明けから申し込み開始となり、定員1300人となっていました。申し込みをしたら、当日会場に行き、田植えや稲刈りを行います。特に田植えの時には水田の中に入るため、汚れてもいい服装で行きましょう。
「田んぼアート」体験の費用
この体験の費用ですが、なんと無料で参加できます。そのうえ、豚汁とおにぎりがつきます。時期的に気候も快適な時期なので、体を動かして、この田んぼアートで育ったお米を使ったおにぎりが食べられるということで、これを楽しみに参加する方も多いそうです。
「田んぼアート」へのアクセス
次に、「田んぼアート」へのアクセスです。田んぼアートがある田舎館村はさほどアクセスがいい場所ではなかったのですが、多くの観光客が訪れるようになり、そのための電車の駅が作られ、ぐんと楽にアクセスできるようになりました。
公共交通機関利用
公共交通機関を利用して行く場合は、JR「弘前」駅から弘南電車弘南線に乗ります。最寄り駅は「田んぼアート」駅で、駅を降りてすぐのところが第二会場の道の駅いなかだてとなります。
第一会場までは歩くこともできますが、シャトルワゴンを利用するのがおすすめです。「たさあべ号」というワゴンが駅前から出ており、これで第一会場まで行くことができます。なお、「たさあべ」とは地元の方言で「田に行こう」という意味です。 電車は30分に1本の割合で出ていますが、ワゴンのほうは本数があまり多くないので、時間を確認していくことをおすすめします。また定員も9人と少ないため、夏休みなど混雑時期には早めに行くと安心です。
車利用
車を利用する場合、青森市からはどちらの会場も約40分かかります。カーナビなどでは「田舎館村役場」を入れると確実に行くことができるでしょう。第一会場は田舎館村役場、第二会場は道の駅いなかだての駐車場を利用することができます。
「田んぼアート」で芸術体験を
ふだん白いお米を当たり前のように食べていますが、「田んぼアート」を見ると、稲の種類の多さに改めて驚かされます。それと同時に、毎年緻密さを増す田んぼアートの進化に驚くばかりです。ぜひその美しさを実際に見て体験してみてください。