日本は国土の75%が山地に分類される山がちな国ですが、たくさんある山の中でもとくに富士山は日本を象徴する山と言えるでしょう。静岡県と山梨県にまたがる富士山は日本でいちばん高い山で、標高は3776メートルあります。その美しい姿と雄大な佇まいは多くの人を魅了し、芸術や信仰の対象になるなど日本人の暮らしに古くから関わってきました。
富士山は今までに何度も噴火をしており、現在でも活火山に分類されています。前回噴火したのは江戸時代(1707年)で、約2週間続いたと言われます。噴出した大量の火山灰は遠く100キロメートル離れた江戸の町にも積もり、江戸は昼間でも蝋燭が必要なほど暗くなったと言います。噴火を繰り返すたびに富士山は少しずつ姿を変えていき、徐々に現在のように広い裾野をもったなだらかな円錐形になりました。周りに他に高い山がない独立峰であるため、その美しさは一層際立っています。その姿は日本最古の和歌集である『万葉集』で歌われているほか、江戸時代の浮世絵にも描かれるなど多くの芸術家の創造力の源となっています。現在でも、日本の1,000円札の裏面には、湖に映る富士山が印刷されています。
富士山は、古くから信仰の対象でもありました。富士山の麓、静岡県富士宮市には富士山本宮浅間大社があります。伝承によるとこの神社は、紀元前27年に富士山の噴火を鎮めるために火難消除の御利益がある浅間大神を祀ったことが始まりとされています。現在では、麓の本宮のほかに富士山山頂に奥宮があり、富士山の8合目から上はすべて浅間大社の境内となっています。
富士山を拝むには最初、遠くから拝む「遥拝」という形が取られていました。11世紀後半になると、当時盛んになっていた山岳信仰と密教とが組み合わさり、「富士山の山頂には仏の世界がある」という信仰が広まりました。そのため修験者たちは、実際に登って拝む「登拝(とはい)」をするようになります。この形式はその後も広まっていき、江戸時代には富士講という富士山信仰のグループができ、多くの庶民が参加して富士山に登拝をするようになりました。現在でも富士山頂の火口の周りを時計回りに一周する「お鉢巡り」をする登山者がたくさんいますが、これも仏教では聖地を巡るときは時計回りに回るという仏教上の慣習によっています。
このように富士山は日本人の文化や信仰に大きな影響を与えてきました。そのことが評価され、2013年「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界遺産に登録されました。