京都には世界的に有名な祭りが3つあります。「葵祭」、「祇園祭」、そして毎年10月に行われる「時代祭」で、これら3つを総称し「京都三大祭」と呼ばれることもあります。
このうち時代祭は、他の2つに比べると祭りの歴史という点では新しいのですが、歴史絵巻が目の前で楽しめるということで、日本人はもちろん外国人観光客にも人気が高く、毎年多くの方が楽しんでいます。
そこで、時代祭の歴史や見どころ、そして楽に見ることができる方法についてもあわせて紹介します。
時代祭の「歴史」
まずは「時代祭」とはどのような祭りなのかについて紹介していきます。
時代祭というのはもともと、平安神宮の例大祭の一つとして行われる行事です。例大祭が毎年10月22日なので、この時代祭も毎年この日に行われています。
この日は平安神宮から京都御所まで天皇の乗り物をかたどった鳳輦という神輿が移動します。そして、祭礼を行った後、再び平安神宮に戻ります。この平安神宮に戻るときに、この神輿の先導として各時代の風俗を表現した行列が進むという形を取ります。これが時代祭としてイメージされる「時代行列」なのです。
時代祭は新しい祭り
さて、京都の祭りというと古い歴史を持つものというイメージがあります。先ほど述べた葵祭は平安時代中期には貴族の祭りとして知られていましたし、祇園祭は864年の「祇園御霊会」から始まると言われるように、いずれも平安時代からの祭りです。
それに対して時代祭は、「時代」と名がついていますが、始まりは1895年、つまり明治時代です。
平安神宮は名前こそ「平安」ですが、神社としては新しく、平安京遷都1100年を記念して創建された神社です。平安神宮が創建された際にその記念行事の一つとして、桓武天皇が平安京を作った時から東京に首都が移るまでの京都の風俗を遡る行列を行うということで始められたのが「時代祭」だったのです。
時代行列があらわすもの
一般的に時代祭と言えば思い浮かぶいわゆる「時代行列」は、先ほども述べたように神輿の先導役という位置づけになっています。
平安神宮は平安京を作った桓武天皇と、平安京で一生を過ごした最後の天皇である孝明天皇を御祭神として祀る神社ですから、移動する神輿の中には桓武天皇、孝明天皇がいるということになります。
そのため時代行列には「二人の天皇の御霊が、家臣たちをしたがえて住まいの京都御所から祀られている平安神宮に行く」という意味があるそうです。ですから、京都に都があった、言い換えれば京都に天皇がいた時代の家臣たちが時代行列という形で表現されていると言われています。
時代祭の見どころ
それでは次に、「時代祭」の見どころについて紹介していきましょう。時代祭は教科書などで見た装束を着用した人々が目の前を通り過ぎるわけですが、実は「京都から見た」歴史ということでちょっとした秘密もあります。そのあたりも触れておきましょう。
目の前に繰り広げられる歴史
時代祭の一番の見どころは、何といってもそれぞれの時代考証に基づいた装束を着用した人々が実際に目の前を移動するという点にあります。明治維新から始まり、江戸、安土桃山、室町、吉野、鎌倉、藤原、延暦という8つの時代ごとに行列が続くさまは、まさに歴史の教科書を目の前で見ているかのようです。
この装束や道具類などはすべて専門の先生による時代考証が行われ、その上で伝統工芸のプロの方が担当して作っています。もちろん使われるものはすべて本物であり、劣化した場合などはやはり時代考証の方の指示で新たに制作されるそうです。
また、歴史上の人物の中には、教科書に出てくるような方だけではなく、物語などで知られる人物もいます。特に平安時代行列に出てくる巴御前や常盤御前などは、教科書などではあまり出てこない人物ですが、「平家物語」などでは人気の女性です。こういった女性たちが当時のいでたちで登場します。
さらに平安時代の女性の服装というと「十二単」ですが、実は江戸時代の和宮も十二単を着用します。ところがこの二つの十二単は時代が違うため、着付けや髪形などに違いがあるのだそうです。そういった細かいところまで再現されています。
ほかにも時代によっては踊りなどの所作がある場合もあり、その場合はその所作も覚え、行列の中で披露する必要があるなど、より当時の様子をリアルに表現するような工夫が行われているのです。
時代祭の歴史は京都の歴史
ところで、先ほど「時代」のところで、「吉野」時代というものが出てきました。教科書などには出てこない吉野時代とは何のことでしょうか。
実はこれは教科書などで習う「南北朝時代」のことです。この時代の始まりは南朝の後醍醐天皇が建武の新政を行ったもののそれが失敗したところで、足利尊氏が北朝の光明天皇を擁立したため、後醍醐天皇が吉野に逃れたというものです。
そのため、南北朝時代というのは本来の天皇である後醍醐天皇を足利尊氏が追い出し権力を握った時代ということで、尊氏を「国賊」と評価する考え方がありました。あくまでも正統の天皇は後醍醐天皇であり、吉野がその中心であったという意識がここにはあらわれています。
また、同様の理由から足利尊氏が作った「室町時代」は長い間時代祭の行列には入っていませんでした。しかし2007年に桓武天皇1200年大祭を機に行列に入るようになり、現在に至っています。
時代祭を見るポイント
このように、時代祭は最初から最後まで見どころが多く、初めての方でも十分に楽しめる祭りとなっています。一方で気になるのが時間であり、長時間立って見ることに不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
祭りの時間は意外と長い!
同じ京都の祭りでも祇園祭などは、「辻回し」と呼ばれる方向転換や「注連縄切り」、「くじ改め」など、見どころになる部分があり、その場所が混雑しがちです。
それに対して時代祭は、京都御所から平安神宮までの約4.5キロを歩く行列なので、ルート沿いならばどこでも見ることができます。ですから、混雑するポイントが分散し、その分見やすいかもしれません。
一方で時代祭の問題は、時間が長いという点です。時代行列の列はなんと2キロにも及び、当然ゆっくりと進みます。ですからすべてを見ようとすると3時間ほどかかります。かなり長時間になるため、簡単な飲み物などを用意しておくことをおすすめします。
有料観覧席を取るのもおすすめ
そんなに長い時間立ちっぱなしはつらいという方は有料観覧席を取ることをおすすめします。時代祭では京都御苑内、御池通、平安神宮通りの3ヶ所に有料観覧席が用意されており、こちらを取れば、ゆっくり座って時代祭を楽しむことができます。
座席は指定となり、時代祭のパンフレットが付きます。京都の観光協会などのほか、コンビニなどでも販売されます。例年8月末ごろから販売されますので、早めに購入することをおすすめします。
時代祭とセットで楽しみたい祭り
さて、京都の秋を彩る時代祭ですが、実は同じ日にもう一つ、有名な祭りが行われることになっています。せっかく時代祭を見に行くのならば、こちらもぜひ体験してみてください。
鞍馬の火祭
「鞍馬の火祭」は鞍馬にある由岐神社の祭りです。平安時代に平安京の内裏に祀られていた由岐明神を鞍馬寺の麓に移したことに始まると言われ、集落一帯に松明が焚かれ、それらが鞍馬寺山門前に集まって神輿渡御を行うというとても勇壮な祭りです。
時代祭とセットで見る場合、鞍馬まで行くためには叡山電車しかルートがありません。車などは利用できませんし、ある程度の人数になった段階で電車を打ち切るので、時代祭が済んだらすぐに駅に行くことをおすすめします。
また、時代祭の観覧場所は三条大橋の近くがおすすめです。ここにはすぐ下に京都市営地下鉄東西線「三条京阪」駅、京阪電車鴨東線「三条」駅があり、この三条駅から京阪電車で「出町柳」駅に行くと、そこから叡山電車に乗り継げるので、スムーズな移動が可能です。
時代祭で歴史絵巻を楽しもう
京都には平安京が置かれてずっと都だったというのはご存じでしょうが、日常的には「都」ということを意識することは少ないかもしれません。そんな中、時代祭を見ると京都が都であった時代の長さ、歴史の古さが実感できます。美しい時代絵巻をぜひ自分の目で楽しんでください。