「かやぶきの里」は京都府の中央部、滋賀県と接する南丹市美山町北(なんたんしみやまちょうきた)にあります。京都府、滋賀県、福井県の県境辺りの山岳地帯に端を発し、宮津市由良で若狭湾に流れ出る一級河川由良川(ゆらがわ)が造ったわずかな平坦な地に、茅葺き屋根の民家が32軒、民俗資料館などを合わせると38軒ほど建ち並んでいます。
茅葺き屋根の集落としては、岐阜県白川村荻町(白川郷)、福島県下郷町大内宿に次いで3番目に多く、国の重要伝統的建造物群保存地区です。建物は、この地方独特の建築技法(北山型住居)で建てられていて、文化的価値が非常に高くなっています。
入母屋造で屋根に特徴がある茅葺き住宅
「かやぶきの里」の民家は入母屋造(いりもやづくり)で妻入り(つまいり)、板壁・板戸、あげにわ、間取り、屋根の飾り、破風(はふ)などの特徴を併せもった、京都市北区の山間部から南丹市美山町付近まで広がるこの地方独特の伝統的農家建築で、『北山型住居』といわれています。
入母屋造(屋根の形状)は、切妻型(きりづまがた・屋根の形状)と寄棟型(よせむねがた・屋根の形状)を併せもった屋根の形状で、四方に伸びる屋根(寄棟)の上に山型で2方向に広がる三角形の屋根(切妻)を乗せたような形です。屋根の上には飾り(千木[ちぎ]・雪割り[ゆきわり]))が付けられ、破風(はふ・屋根てっぺんの三角部分に付ける飾り・北山型住居では通風口の役割)の模様が各家庭でおもいおもいの絵柄になっています。家の玄関は本来北山型では妻側(切妻屋根の三角形側)にあるのですが、現在は使い勝手がいい平入り(ひらいり・切妻屋根の傾斜のある側)に改築された住居もあります。
間取りにも特徴があり、居間は“田”の字型で、板戸や板壁で仕切られ、“あげにわ(上げ庭)”と呼ばれる外部より一段高い土間はほかにない独特の造りです。
「かやぶきの里」は“西の鯖街道”沿いの集落
「かやぶきの里」のある美山地区は、古くから若狭湾に面した小浜から京都方面へ行く小浜街道沿いに開けた集落で、この街道は江戸時代には日本海側の魚を京都へ運ぶ“鯖街道(さばかいどう)”のひとつでした。
“鯖街道”は琵琶湖畔を通る東のルートから、周山街道(現国道162号線)と呼ばれる西側のルートまでいくつか存在していたことが知られていますが、この「かやぶきの里」を通る小浜街道は、京都市街に近づくと周山街道に合流します。周山街道ルートは“西の鯖街道”と呼ばれているのですが、この小浜街道ルートも“西の鯖街道”に含まれると考えられることが多くなっています。
江戸時代に建てられた住居が多く残る
「かやぶきの里」にある建物は、江戸時代中期から後期に建てられたものも多く、江戸時代にタイムスリップしたかのような日本の原風景が広がっています。最も古い建物は1976年ものもで、そのほかにも江戸時代築が18棟あります。茅葺きの屋根は高く、内部は2階建てになっていますが、居室は1階のみで2階(小屋裏)は一般的には倉庫として使われているものが多いようです。建材は周辺の森から切り出されていて、ケヤキ、クリ、ヒノキ、スギ、マツなど太くてしっかりしたものが使われています。これが江戸時代からの家屋が残っていた要因のひとつです。
「かやぶきの里」の民家の多くは現在も普通の生活をされていて、敷地や建物内部を見ることはできませんが、敷地内には古民家を使った民宿が2軒、食事処1軒とカフェ2軒が営業しています。
貴重な昔の道具や昔ばなしを見聞きできる「美山民俗資料館」
「美山民俗資料館」は、もともと約200年前に建てられた古民家でしたが、2000年に不審火で焼失していまいました。現在の建物は2002年に再建されたものですが、その際に北山型住居を忠実に復元されています。館内には昔の道具が展示され、普段は見られない茅葺き屋根の裏側も見ることができます。「かやぶきの里」を一望できる縁側で、地元のおばあちゃんの昔ばなしを聞きながら、自然豊かな美山の風景をのんびりと眺めているとなんだか『日本むかし話』の世界に入り込んでしまったような、妙に懐かしい気分なってくるから不思議です。
美山民俗資料館
電話番号:0771-77-0587(かやぶきの里保存会)
開館時間:
4月~11月/9:00~17:00
12月~3月/10:00~16:00
入館料:おとな 300円、中学生以下無料
休館日:月曜日、お盆期間、年末年始
工房兼藍染めの展示が見られる「ちいさな藍美術館」
「かやぶきの里」内にある1796年築の旧中村家住宅をリノベーションし、藍染めの作家新道弘之さんが工房として使用しています。2階は新道さんの作品や新道さん蒐集した世界各国の藍染めを展示する美術館として開館しています。
ちいさな藍美術館
電話番号:0771-77-0746
開館時間:10:00~17:00
入館料 300円
休館日 ・木、金曜日(祝日開館)
・冬季休館(2020年12月17日~2021年3月31日)
入館料:おとな 300円
URL:http://shindo-shindigo.com/museum/
重要文化財に指定された2棟の茅葺き住宅
「かやぶきの里」から少し離れた美山町エリアには国の重要文化財に指定されている2棟の茅葺き住宅があります。
日本最古の農家建築『石田家住宅』
美山町大野地区樫原にある『石田家住宅』は、江戸時代前期の1652年に建てられた日本最古の農家建築です。建物は典型的な北山型住宅で、1973年(昭和48年)に解体修理が行われています。1972年(昭和47年)に国の重要文化財に指定されました。
「かやぶきの里」からは目の前を走る“美山かやぶき由良里街道”(県道38号線)を由良川沿いに南下し、国道162号線、県道12号線経由し約21km、車で30分ほどの、大野湖(大野ダム湖)近くにあります。
石田家住宅
住所:京都府南丹市美山町大字樫原字中岡9
電話番号:0771-75-9110(南丹市美山町大野振興会 )
見学可能日:4月~11月 土・日・祝 10:00~16:00
江戸時代の豪農の館『小林家住宅』
『小林住宅』は、1816年に建てられた茅葺き住宅で、小林家は園部藩の代官を勤めていた豪農でした。当時の建物は主屋のほか、小屋と土蔵、露地門、塀があり、主屋、小屋、土蔵が国の重要文化財に指定されています。なお小林家は現在も住居として使用されていて、外観のみの公開です。
「かやぶきの里」からは“美山かやぶき由良里街道”(県道38号線)を南下し、国道162号線、県道169号線経由で約8km、車で10分ほどの美山町大字下平屋にあります。
小林家住宅
住所:京都府南丹市美山町大字下平屋小字寅石4番地ノ1
電話番号:0771-75-1906(美山ナビ)
かやぶきの里
住所:京都府南丹市美山町北
問い合わせ先:美山ナビ(南丹市美山観光まちづくり協会)
電話番号:0771-75-1906 (観光案内専用ダイヤル)
脚注1:屋根の形状
屋根の形状にはいろいろな種類があり、それぞれ名称も付けられています。
切妻(きりづま)屋根、寄棟(よせむね)屋根、といったような一般的な屋根から、入母屋(いりもや)屋根や越(こし)屋根などの伝統的な屋根、ギャンブレルやマンサードなど欧米の屋根など、図解と実例の画像をご紹介しながら、それぞれの屋根形状の特徴(メリットとデメリットなど)を解説します。
参照:屋根の形状
脚注2:千木(ちぎ)
大棟(やねのてっぺん)の上にあげられたX字形に交叉する組木。神社本殿の棟(むね)の両端に交差して立つ飾りで、民家の屋根にもみられる。
参考::千木 コトバンク
脚注3:雪割り(ゆきわり)
屋根の棟(むね)部分に取りつきます。雪が多く降る場合、普通の三角屋根だと棟部分に雪が溜まることがあります。
この「雪割り」は棟(てっぺん)に雪が溜まらないようにするために取り付けます。
参照:雪割り (株)第一建築業