珍しく造成される大涌谷の温泉

大涌谷の写真
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神奈川県箱根町の大涌谷(おおわくだに)は、約3,000年前の火山爆発による爆裂跡です。標高は800mから1,000mで、箱根山(最高峰[神山(かみやま)]標高1,437m)を形成する中央火口丘の1つ冠ヶ岳 (かんむりがたけ・1,409m)の北斜面にあります。亜硫酸ガスを含む高温の蒸気がいたるところから噴き出し、硫黄分を含んだ100℃に近い温泉が湧き出して周囲を硫黄色に染めています。

大涌谷の写真
大涌谷

大涌谷は常に活動を続けている噴気地帯で、小規模な噴火や地震を繰り返してきました。最近では2019年5月に小規模な水蒸気爆発が起こり、一時付近に避難命令が出されていましたが、10月には解除され観光での入場も可能になっています。

箱根最大の観光地、大涌谷

大涌谷の遊歩道
大涌谷の遊歩道

大涌谷は比較的穏やかな一部の地域に遊歩道が設けられ、散策できます。温泉を利用した入浴施設はありませんが、温泉を利用してゆでた卵は表面が真っ黒で、1つ食べると7年寿命が延びる“黒たまご”として観光客に大人気です。

黒たまごの画像
黒たまご

大涌谷では全国的にも珍しい温泉製造会社があり、そこで造られた温泉は数キロはなれた仙石原(せんごくばら)や強羅(ごうら)に送られて利用されています。

大涌谷噴煙地

箱根全山(箱根町観光協会公式サイト)

URL:https://www.hakone.or.jp/533?gana=member

箱根登山鉄道の運行の様子
(画像提供:箱根登山鉄道)

アクセス/

公共交通機関/箱根登山鉄道(小田急電鉄)箱根湯本駅から箱根登山鉄道で強羅、強羅から箱根登山ケーブルカーで早雲山駅へ。早雲山駅からは箱根ロープウェイと乗り継ぎ終点大涌谷駅で下車、または、芦ノ湖畔の桃源台駅から箱根ロープウェイで終点大涌谷駅下車

※箱根ロープウェイは早雲山駅と桃源台駅を結んでいますが、早雲山駅と桃源台駅間を一気に行くことはできません。大涌谷駅で一度降りて乗り換える必要があります。

車/東名高速道路厚木ICから小田原厚木道路経由小田原西ICから約30分、または東名高速道路御殿場ICから国道138号線、県道75号線経由で約40分

箱根ロープウェイからの眺め
(画像提供:箱根ロープウェイ)

鎌倉時代から整備された箱根の温泉

箱根には大涌谷のほかいくつもの噴泉地帯があり、温泉は古くから利用されていました。古くは石器時代の遺跡が芦之湯(あしのゆ)付近で見つかっていて、その頃には既に温泉として利用されていたと推定されています。

鎌倉時代には京都方面に行くためには箱根越えが必須なため、街道が整備され温泉のある宿場町も整備されていきました。鎌倉側からの箱根越えの起点である湯本は、開湯されたのは1,200年前と伝わっていますが、湯治場として賑わいを見せたのは鎌倉時代になってからです。

江戸時代には芦ノ湖畔に東海道の関所が設けられ、箱根は大いに発展します。湯本をはじめとする“箱根7湯”といわれる温泉場が誕生し、参勤交代の武士をはじめ多くの旅人が疲れを癒やしました。

東海道が賑わっていた江戸時代には大涌谷の温泉はほとんど使われていませんでした。本格的に使われ始めたのは、1870年(明治3年)に大涌谷の麓にある仙石原(せんごくばら・標高700m)に大涌谷から引いた温泉を使って湯治宿が開設されたのが最初といわれています。

人間の手によって造られる大涌谷の温泉

大涌谷の温泉設備

大涌谷は大量の亜硫酸ガスや硫黄を含んだガスが噴き出していますが、湯となった温泉は意外と少なく、それも度重なる火山活動のため、噴出口の枯渇や移動が相次ぎ、安定した温泉供給ができませんでした。

そこで、1930年(昭和5年)になって大規模な温泉開発を行うため、仙石原に大きな牧場を持っていた渋沢栄一や三井、大蔵などの財閥が発起人となって箱根温泉供給株式会社が設立されます。

そこで考案されたのが、大量に噴出している水蒸気を利用する温泉でした。水蒸気はそのままでは温泉になりません。大量の水が必要なのですが、大涌谷には水がないため、やむなく2km以上離れた仙石原の水を引き上げることにしたのです。高低差は実に350mあります。工事は1933年(昭和8年)までかかり、総延長2,600mの送水管が完成しました。

水は仙石原のイタリ湿原に井戸を掘り、一度通称イタリ湖というため池に水をため、ゴミや不純物を除いた後大涌谷まで動力ポンプで水を揚げます。

大涌谷ではその水に噴出した高温の蒸気と吹きつけ温泉にします。それに大涌谷から自然湧出する温泉を加えて、亜硫酸ガスや二酸化硫黄ガスなど人体に有害な物質を除去して、再び仙石原まで送られ、各施設に配湯されます。その延長距離は14.5km、水の供給量は日量5,000リットル(2020年現在)です。

造成された温泉は酸性で、泉質は造成システムによって多少の違いがあり酸性-カルシウム-硫酸塩温泉や酸性-カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉となっています。造成当初は硫黄分が多く含まれているのですが、人体に有害な火山ガス成分を取り除く過程で除去されていて硫黄分はほとんど含まれていません。色は湯の花が多く含まれるため白濁しています。

効能はアトピー性皮膚炎、糖尿病、表皮化膿症、きりきず、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症、疲労回復、健康増進に効き目があり、酸性なので特に皮膚病に良いとされています。

この造成された温泉(造成温泉)は地中から湧出する水蒸気を主原料にしているため、温泉法で“天然温泉”と認められています。

湯の花が含まれていて白く濁った温泉

箱根一の高原リゾート、仙石原

大涌谷の温泉は標高700m地帯に広がる仙石原へ供給するために造成された温泉です。

仙石原は箱根火山のカルデラ内にある高原で、標高は約700m。元は芦ノ湖の一部でしたが、箱根山(神山)の爆発によりせき止められ湿地帯になったところです。

1700年代には大涌谷から温泉を引いていたとの記録がありますが、本格的に開発が始まったのは1880年(明治13年)に渋沢栄一らが牧場「耕牧舎(こうぼくしゃ)」を設立してからになります。特に仙石原からの引湯が本格化した1930年以降は人気リゾートとして急速に発展しました。

仙石原温泉には現在20軒ほどの旅館・ホテルがあり、多くの施設は大涌谷の温泉を引いていますが、一部施設は自家源泉だったり強羅から温泉を引いたりしています。詳しくは各宿のホームページで確認してください。

仙石原:ススキ草原の風景
ススキ草原の様子

現在の仙石原には「箱根湿生花園(はこねしっせいかえん)」はじめ多くの観光施設があります。特に「ススキ草原」は秋の風物詩として多くの観光客が訪れています。これほどの人気リゾートになったのは大涌谷の温泉造成事業があったからといえるでしょう。

仙石原アクセス

公共交通機関/箱根登山鉄道(小田急電鉄)箱根湯本駅から路線バスで約30分

車/東名高速道路厚木ICから小田原厚木道路経由山崎ICから約30分、または東名高速道路御殿場ICから国道138号線で約30分

箱根ナビ

URL:https://www.hakonenavi.jp/area/sengokuhara/

箱根仙石原温泉旅館ホテル組合

住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原104

電話番号:0460-84-9615

URL:http://www.sengokuhara-onsen.com/

箱根町立箱根湿生花園

箱根町立箱根湿生花園の画像
(画像提供:箱根湿生花園)

URL:https://hakone-shisseikaen.com/

上流階級の別荘地だった強羅

大涌谷の温泉の一部は強羅(ごうら)にも配湯されています。強羅は箱根湯本からの箱根登山鉄道の終点であり、早雲山への箱根ケーブルカーの始点にもなっているターミナルです。大涌谷観光へ鉄道を利用する観光客が必ず立ち寄ることからお土産店や食事処が多くあります。

強羅の開発は、明治時代後期頃から始まり、保養別荘地として上流階級に人気となり、1914年(大正3年)には「強羅公園」が開園しました。

「強羅公園」は日本初のフランス式整型庭園(主に直線を使った幾何学的な図形で構成した庭園)で、園内には益田孝(三井コンツェルン創始者)はじめ3人の茶人に受け継がれた茶室、国の登録有形文化財「白雲洞茶苑(はくうんどうちゃえん)」があります。

強羅公園の画像
(画像提供:箱根強羅公園)

現在の強羅には20軒ほどの宿泊施設があります。温泉は大涌谷のほか、施設の自家源泉や、強羅の南西にそびえる早雲山(そううんざん・標高1,244m)の山中にある噴気地帯(早雲地獄)で造成される温泉などが使われているので、各施設の温泉は施設ホームページで確認してください。

強羅アクセス:

公共交通機関/箱根登山鉄道(小田急電鉄)箱根湯本駅から約40分、強羅下車

車/東名高速道路厚木ICから小田原厚木道路経由小田原西ICから約30分、または東名高速道路御殿場ICから国道138号線で約30分

箱根ナビ

URL:https://www.hakonenavi.jp/area/gora/

箱ぴた(箱根温泉旅館ホテル協同組合)

電話番号:0460-85-5571

URL:https://www.hakone-ryokan.or.jp/search/

箱根強羅公園

住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300

電話番号:0460-82-2825

URL:https://www.hakone-tozan.co.jp/gorapark/