日本茶には抹茶、煎茶、玉露など、多彩な種類があります。
自分にとってはどんなお茶が美味しいのか、わからない方も多いのではないでしょうか。 知っておくとお茶選びはもちろん、特定のお茶が際立って美味しい旅行先の選択や、産地の風景の楽しみ方にまで役立つ、そんな日本茶の種類について解説します。
1.抹茶 ~800年の歴史が生み出す、濃厚な甘味とささやかな苦味~
2.煎茶 ~最もオーソドックスな日本茶で、コクとキレのある苦味が特徴~
3.玉露 ~旨味と甘味のみを濃縮した、日本茶の最上級品~
1.抹茶 ~800年の歴史が生み出す、濃厚な甘味とささやかな苦味~
抹茶は日本茶の中で最も歴史が長く、特に戦国時代にかけて脚光を浴びました。
千利休は茶人として有名ですし、織田信長や豊臣秀吉といった武将も、大いに抹茶を使った茶会を奨励しました。
しかし現在は、日常生活の中で飲む機会が最も少ない日本茶となっています。
抹茶スイーツという形で『食べる』機会が増えた日本茶でもありますが、スイーツとしてのイメージのままで抹茶を飲むと、その味わいを意外なものとして感じる方は多いです。
抹茶は茶葉の粉末をお湯に攪拌したものですので、舌触りと喉越しが強く感じられます。
砂糖などとはまた違う、素朴な甘味と旨味が濃厚で、少しの苦味が後味を爽やかなものとしてくれます。
渇きを癒すというよりは、スープのように味わって飲むものです。
茶会における日本独特の所作が特徴的な『茶道』に代表されるように、文化的側面も感じながら楽しむ、精神的な飲み物とも言えるでしょう。
とは言え、昨今では肩肘を張らずとも抹茶を体験できるカフェが増えてきました。
代表的な抹茶の産地である京都・宇治や愛知・西尾では、抹茶を気軽に飲める日本茶カフェが多数あります。
それらの産地にはもちろん茶園も数多く存在し、4~5月頃に訪問すると黒や白のカーテンのようなものや、ワラで覆われている茶園を見る機会に恵まれます。 4~5月頃以外は覆いはされませんが、茶園にはパイプで組まれた骨組みやカーテンが畳まれた束などを見ることができるでしょう。
日光を遮断することで茶葉はその甘味や旨味を増す性質があり、カーテンやワラで覆われた茶園は、抹茶や玉露専用の茶園なのです。
昔は全てワラで行われていた、茶園に覆いをするという技術は、戦国時代の混乱期に形成され、江戸時代には幕府に許可された人々にしか行うことが許されませんでした。
抹茶というのはそれほど、特別な飲み物だったのです。 宇治や西尾ではそんな、決して一朝一夕で誕生したわけではない悠久の抹茶の歴史を、一身に体感しながら味わうことができます。
2.煎茶 ~最もオーソドックスな日本茶で、コクとキレのある苦味が特徴~
煎茶は日本で最も生産数が多く、オーソドックスな日本茶です。
急須で淹れるお茶のほとんどが、この煎茶です。
旨味や甘味、苦味や渋味のバランスが程良く、また産地の環境を反映した香りが特徴としてあります。
美味しい煎茶とは気づけば二煎目、三煎目と飲み進めてしまうものとされています。
ワインのように、土地から生まれる香りや味を楽しみたいという方にはピッタリの日本茶と言えるでしょう。
注意点としては、キレのある苦味は煎茶の良い点とされますが、苦味の苦手な方にはお口に合わない可能性があります。
代表的な産地は静岡です。
静岡県内に多数ある日本茶カフェでは、緑濃いコクのある煎茶が楽しめます。
静岡では深蒸しという製法がポピュラーで、深く蒸された茶葉は淹れると深い緑色のお茶となります。
また、同じ煎茶でも静岡の本山と呼ばれる地域や、京都は宇治の南に位置する和束では、浅蒸しの煎茶が作られています。
こちらは浅蒸しという名の通り茶葉の蒸しが浅く、山吹色のお茶を淹れることができます。
深蒸しの煎茶はこってりとしたコクが特徴ですが、浅蒸しの煎茶はより産地の環境を反映した味わいが特徴です。
それに伴って苦味なども強くなることがありますので、浅蒸しの煎茶は深蒸しの煎茶よりも、人によって合う合わないがハッキリと分かれます。
産地に赴くと、山肌や平原に茶樹の畝が筆を引いたように並んでいるのを見ることができます。
煎茶はその苦味や渋味も味わいの特徴で、日光を遮断して茶葉の持つ甘味や旨味を増す技術である、覆いをするということを行いません。
ですので、自然の風景の中に茶の畝だけが整然と並ぶ美しさを、楽しむことができます。
3.玉露 ~旨味と甘味のみを濃縮した、日本茶の最上級品~
玉露は抹茶と同じ、あるいはそれ以上に価格が高いこともある、日本茶の中でも最も高級なお茶です。
通常のお茶よりも茶葉を多く用い、使用するお湯は低温で量を控えめにすることで、旨味と甘味が濃縮された数口分を抽出します。
口に運ぶと、その出汁のような味わいとふくよかな香りに圧倒されることでしょう。
数口のお茶というと物足りない印象を受けるかもしれませんが、実際に飲んでみると数口で十二分に楽しめることを実感できます。
代表的な産地は九州、福岡・八女です。
特に『八女伝統本玉露』と言えば、国の知的財産として保護されるほどの品質の玉露です。
産地では抹茶の茶園のように、4~5月頃には茶園を黒や白のカーテンかワラで覆って遮光して、茶葉を栽培しています。
そうすることで、茶葉の旨味や甘味を増すことができるのです。
4~5月頃でなくても、茶園にはパイプで組まれた骨組みや黒いカーテンが畳まれた束などを見ることができます。
玉露は江戸時代の後期に製法が確立されました。
抹茶のように覆いをして育てた茶葉を、煎茶のように揉むことでお湯に抽出できるように作ればどうなるかを試した結果、生まれたとされています。
肥料を大量に用い、覆いをして旨味と甘味を増し、そうしてできた茶葉を通常よりも濃縮して抽出する玉露は、さながら日本茶のフォアグラと呼べるでしょう。
とは言え、産地では煎茶よりも少し高くはなりますが、手の届く値段で玉露を楽しむことができます。 福岡の八女以外では、京都の宇治周辺も主要な産地です。