「有馬温泉」は、兵庫県神戸市に位置し、愛媛県道後温泉、和歌山県白浜温泉とともに日本三大古湯のひとつです。
「有馬温泉」の温泉は赤く濁った『金泉』と、無色透明な『銀泉』があります。しかも、湯には硫黄泉と酸性泉に含まれるもの以外、環境省の定める温泉成分(環境省:温泉の定義)をすべて含有しているという世界にも希な温泉なのです。
近くに火山がないのに高温の温泉が湧く不思議
「有馬温泉」のある六甲山周辺には火山がありません。それなのになぜ高温の温泉が湧くのでしょう。
温泉には2つのタイプがあり、100℃近い高温で湧き出す温泉は、多くは火山に由来するものです。蔵王や箱根、登別、阿蘇・九重など活火山付近にある温泉がそうで、その温泉には硫黄分や硫化水素が多く含まれています。
温泉のタイプにはもうひとつ、海洋性の温泉があります。海洋性の温泉とは、海水が地殻変動などによって閉じ込められ、それが地下熱によって温まり、地球の割れ目(断層など)に沿って地表に湧き出たものです(最近は動力によって引き上げられたものが多いですが)。泉温は低いものが多く、せいぜい40℃止まりで、おおもとは海水ですから塩分を含んでいます。海岸にある温泉はほとんどが海洋性の温泉です(箱根に近い熱海温泉や伊豆の熱川温泉など近くに火山などの熱源があると高温になります)。
地下60kmで「有馬温泉」の赤ちゃんが生まれる
「有馬温泉」の『金泉』と呼ばれる赤褐色の湯は塩分の多い温泉なので、海洋性の温泉なのですが、海岸からは離れたところに位置しています。なぜ海から離れたところ、しかも標高400m近くのところに海洋性の温泉が湧くのでしょう。その答えは、六甲山の成立に関係しています。
「有馬温泉」の今あるところは大昔海岸だったのです。それが地殻の隆起により六甲山ができ、今の位置になったと考えられています。
もうひとつ不思議なことがあります。「有馬温泉」の近くには火山がありません。それなのに湧き出す温泉は高温です。その仕組み(有馬温泉の仕組み)は、本州に下に潜り込むフィリピン海プレートが関係しています。フィリピン海プレートともに沈み込んだ海水が、地下60kmくらいのところでマントルに熱せられ、地上に湧き出します。地下60km近くにかかる圧力は地上の2万倍(2万気圧)にもなり、そこに存在する水は地上の沸騰点(100℃)を超えて300℃以上の“高温流体=超臨界流体”となります。そして、その高温流体が地上へと上ってくる過程で、鉄やアルミニウム、マグネシウムなどのさまざまな地球の含有物を取り込みます。そのため高温でいろいろな成分を含んだ温泉になるのです。
『金泉』は鉄分の多い塩化物泉
「有馬温泉」の象徴となっている『金泉』がこのフィリピン海プレートに由来する温泉になります。最新の研究で「有馬温泉」の湯は600万年以上前の海水が温められたものと分かってきました。
『金泉』は、地下より湧き出した当初は無色透明です。しかし空気に触れると徐々に赤褐色に変色します。これは含まれる成分の中に鉄分が多いためで、徐々に酸化(赤さび)して色も日を追って濃くなっていきます。各施設の温泉はたとえかけ流しであっても、清掃のため数日で入れ替えるのですが、赤い色は入れ替える寸前がいちばんきれいだそうです。
高温の湯が噴出する、5か所ある『金泉』の泉源
泉質は、含鉄-ナトリウム-塩化物温泉や含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉と表示されていますが、表示以外にもカリウム、マグネシウム、バリウム、炭酸水素など多くの成分を含んでいます。泉温は79℃から98℃くらいまでと湧出する泉源によって違いがありますが、性質はほぼ中性になっています。
効能は、疲労回復、神経痛、筋肉痛、冷え性などのほか、『金泉』特有の効果としては、感染性皮膚疾患や慢性湿しん、アレルギー性皮膚疾患、慢性湿しん、じんましんなどの適応症があります。
『金泉』は、天神泉源、極楽泉源、御所泉源、有明泉源、妬(うわなり)泉源と5つの泉源があり見学できます。また日帰り温泉施設「金の湯」で『金泉』が楽しめます。
天神泉源
泉質:含鉄ナトリウム、塩化物強塩高温泉
温度:98.2℃
有明源泉
泉質:含鉄ナトリウム、塩化物強塩高温泉
温度:90.1℃
御所源泉
泉質:含鉄ナトリウム、塩化物泉
温度:79.3℃
極楽源泉
泉質:含鉄ナトリウム、塩化物強塩高温泉
温度:94.3℃
妬源泉
泉質:含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉(高張性・中性・高温泉)
泉温:97.3℃
日帰り温泉施設「金の湯」
住所:兵庫県神戸市北区有馬町833
電話番号:078-904-0680
営業時間:8:00~22:00(最終受付21:30まで)
入浴料:おとな(中学生以上) 650円、こども(小学生)340円
休館日:第2火曜日、第4火曜日(祝日の場合は営業、翌日休館)、1月1日
泉質:含鉄-ナトリウム-塩化物強塩高温泉
URL:https://arimaspa-kingin.jp/kin-01.htm
炭酸泉とラジウム泉がある『銀泉』
『銀泉』は、無色透明な温泉で、炭酸を含んだ源泉とラジウムを含んだ源泉があります。この温泉は『金泉』とは違って、地下熱によって温められた地下水が温泉となったもので、地下の比較的浅いとことから湧く温泉です。海洋性ではないので塩分はほとど含まれていません。泉温は低く浴用としては加温して使用されています。
炭酸(二酸化炭素)を含んだ温泉は二酸化炭素泉といい、日本では0.6%しかない珍しい温泉です。炭酸水のような温泉で、飲むとピリピリします。泉源は「炭酸泉源」の1か所で「有馬温日帰り温泉「銀の湯」や一部の施設で入浴できます。炭酸は毛細血管を拡張するといわれ、入浴では高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、機能性動脈循環障害、機能性心疾患などに効果があり、飲用すると胃液の分泌を促します。
有馬銘菓の『炭酸泉せんべい』は、この温泉を使用して練った原料を使ったせんべいです。
炭酸泉源
泉質:単純二酸化炭素泉
温度:19.3℃
日帰り温泉施設「銀の湯」
住所:兵庫県神戸市北区有馬町1039-1
電話番号::078-904-0256
営業時間:9:00~21:00(最終受付20:30まで)
入浴料:おとな(中学生以上) 650円、こども(小学生)340円
休館日:第1火曜日、第3火曜日(祝日の場合は営業、翌日休館)、1月1日
泉質:単純二酸化炭素泉と単純放射能泉の混合泉
URL:https://arimaspa-kingin.jp/gin-01.htm
有馬せんべい本舗
兵庫県神戸市北区有馬町266-10
電話番号:0120-1341-88(フリーダイヤル)
URL:https://tansan-senbei.com/
『銀泉』のうち、ラジウムを含む温泉は、表示泉質名では放射能泉と表記し、ごく微量なラジウムを含んでいます。効能は痛風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆のう炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病などで、各施設の『銀泉』は、この温泉がほとんどです。日帰り温泉施設「銀の湯」では炭酸泉源の炭酸泉と放射能泉を混合して使用しています。
※『金泉』『銀泉』とも施設によって使用する源泉が違います。泉質等に関しては有馬温泉観光協会または各施設に問い合わせてください)
大国主命が発見し、仁西上人が整備した「有馬温泉」
「有馬温泉」は、約30万年前には当時海岸だった現在地付近で湧き出していたと推定されています。その後六甲山が隆起し、標高約390mになったこの地で湧き続けてきました。
人が温泉として使い始めたのは神話の時代で、大国主命(おおくにぬしのみこと=大黒様)が当地を訪れた際に発見したといわれています。
その後西暦600年代前期に当時の天皇が有馬の温泉に入りに来たという話が広がり、「有馬温泉」の存在が知られるようになったのです(「日本書紀」による)。
奈良時代(710年~794年)には高僧行基(ぎょうき・668年~749年)が薬師堂を建て、『温泉寺』を創建し「有馬温泉」を広めました。
その後天災などにより壊滅状態だった「有馬温泉」を、奈良の僧侶仁西(にんさい)が村人たちと埋まってしまった源泉を掘り出し、『温泉寺』を再興して「有馬温泉」を復活させました。1191年ごろといわれ、その際に12の宿坊を開設したのです。
これが現在ある「有馬温泉」の“坊”の起源になったといわれています。現在ある“坊”の中で『御所坊』『角の坊』『中の坊』はこの時代から続く宿です。
「阪神・淡路大震災」後見つかった豊臣秀吉の『湯山御殿跡』
「有馬温泉」は、仁西上人によって復興を遂げましたが、その後も大火や大地震などにより大きな被害を受けました。1583年(天正11年)以降、豊臣秀吉が「有馬温泉」を気に入り、何度か訪れ復興のため力を尽くします。大地震が襲った後の1597年(慶長2年)には大規模な改修工事を行っています。改修工事とともに秀吉は湯殿(湯山御殿)を造り、入浴するのを楽しみにしていましたが、温泉を訪れる前に亡くなってしまいました。
『湯山御殿』はその後失われてしまったのですが、およそ400年後の1995年(平成7年)に勃発した“阪神・淡路大震災”で奇跡が起きました。この大地震で有馬温泉も大きな被害を受け、多くの宿や施設は休業を余儀なくされ、復興には多くの時間と労力が費やされました。古刹の極楽寺も多大な被害を受け、庫裏(くり・寺の調理場)は損壊してしまったのですが、なんとその下から『湯山御殿』の一部とみられる遺跡が見つかったのです。
「湯山御殿遺跡」は1997年(平成9年)に神戸市の文化財に指定され、1999年(平成11年)には、発掘された“蒸し風呂”や“岩風呂”の遺構、出土した茶器などを展示公開する「太閤の湯殿館」がオープンしました。
「太閤の湯殿館」周辺には行基が創建したと伝わる『温泉寺』や「有馬温泉」の守り神を祀る『温泉神社』、「湯山御殿遺跡」が発見された『極楽寺』などがあり、「有馬温泉」の歴史に関わる文化財に触れることができるエリアとなっています。
太閤の湯殿館
住所:兵庫県神戸市北区有馬町1642 極楽寺境内
電話番号:078‐904‐4304
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般 200円、児童生徒 100円
休館日:第2水曜日
URL:https://arimaspa-kingin.jp/taiko-01.htm
基本情報
住所:兵庫県神戸市北区有馬町
問い合わせ先:有馬温泉観光案内所
電話番号:078-904-0708
URL:http://www.arima-onsen.com/
アクセス:
公共交通機関/神戸電鉄有馬温泉駅下車
車/大阪・京都方面からは中国自動車道西山口JCTから阪神高速7号北神戸線で西宮山口IC下車、岡山・広島方面からは中国自動車道・山陽自動車道西宮北IC下車など
脚注1:温泉の定義
温泉は、昭和23年に制定された「温泉法」により、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、一定の温度又は物質を有するものと定義されています。
参照:温泉の定義 環境省
脚注2:有馬温泉の仕組み
海底近くでフィリピン海プレートが陸側のプレートに沈み込んだときに、海水を一緒に巻き込んでいきます。岩石の一部となり地下60キロメートルの地中まで沈み込むと、マントルに熱せられ、温泉となって地表に向かって熱水が上部に湧き出すのですが、その場所が有馬なのです。
参照:近畿地方に活火山がなく有馬温泉が湧く原因を解明 神戸大学
脚注3:高温流体
物質には、温度と圧力により、固体・液体・気体の三つの集合状態があります。しかし、ある温度・圧力(臨界点)を超えると、気体と液体の境界面が消失して、両者の間の特有の性質を持つ均一な「超臨界流体」と呼ばれる高密度流体になります。
参照:高温高圧流体技術とは かがわ産業支援財団