「指宿温泉(いぶすきおんせん)」は、鹿児島県の薩摩半島の南部に位置し、“砂むし”で有名な温泉です。
指宿エリアは、沖縄から桜島、霧島、阿蘇へと続く西日本火山帯(霧島火山帯)の真上にあり、活火山の開聞(かいもん)岳(標高924m、薩摩富士)、カルデラ湖の池田湖、火口が海だったため海水が入り込み円形にできた山川湾など噴火の痕跡も多く、地下深くでは火山活動が続いています。そのため、地下熱が高く、池田湖辺りから流れ出る温められた地下水と、海水が海岸付近で混ざり合い、塩分の濃い高温の温泉として湧き出しています。指宿には有史以来温泉があったはずですが、「指宿温泉」がいつ頃から使用されていたかは文献がなく、分かっていません。
どこを掘っても温泉が湧き出すといわれる指宿市ですが、泉源数は市全体で1,000カ所を超え泉質はほとんどが塩分を多く含んだ塩化物泉です。効能はきりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症などに効果があり、色は灰褐色のところが多くなっています。
「指宿温泉」はいくつかの温泉の総称
「指宿温泉」という名称は、もともとは柴立(しばたて)温泉、二月田(にがつでん)温泉、弥次が湯(やじがゆ)温泉、村の湯温泉、朝日温泉、湊(みなと)温泉、潟口(かたくち)温泉、摺が浜(すりがはま)温泉という現在のJR指宿駅、二月田駅、宮が浜駅周辺の8つの温泉の総称(『療養本位温泉案内 関西篇』1936年刊)として使われています。最近ではその範囲が広がって、山川(やまがわ)温泉や鰻(うなぎ)温泉など指宿市内に点在するいくつかの温泉を加えて「指宿温泉」と呼んでいます(いぶすき観光ネット・指宿市)。
最も温泉施設が多く、賑わっているのが摺が浜に湧く「摺が浜温泉」で、湯の浜と言うほど海岸の砂全体が温泉で温められ、海からは湯気が立っています。“砂むし”はこの海岸から始まったといわれていて、江戸時代には薩摩藩(さつまはん)島津家の下屋敷が置かれていたと伝わっています。『療養本位温泉案内 関西篇』では“下屋敷の温泉跡は立派な公衆浴場になっている”と書かれていますが、今では場所を特定することができません(指宿市役所観光課)。
摺が浜周辺の温泉施設は「摺が浜温泉」という名称は使わず、すべて『指宿温泉』となっています。
江戸時代には盛んに行われていた“砂むし”
“砂むし”は、いつ頃から行われていたかは分かりませんが、キリスト教の宣教師フランシスコ・ザビエル(1506~1552)の友人で、ザビエルが来日する前に調査のため指宿(山川付近)にやってきたポルトガル人船長の報告書には“砂むし”をした様子らしき記述があります。江戸時代後期に薩摩藩が編纂した『三国名勝図会』には、はっきりと「砂(沙)蒸し」と書かれていて、江戸時代には盛んに行われていました。
摺が浜には砂むし専用施設『砂むし会館 砂楽~さらく~』があり、干潮時は波打ち際の砂浜で“砂むし”を楽しむことができます。ほかに波打ち際から少し手前に屋根付きの砂むし場があり、満潮時や荒天時にも砂浴が可能です。本館の建物内には温泉大浴場や休憩所があります。
砂むし会館 砂楽~さらく~
住所:鹿児島県指宿市湯の浜5-25-18
電話番号:0993-23-3900
営業時間:8:30~12:00、13:00~21:00
※受付終了 20:30 (土・日・祝日は12時~13時も営業)
利用料(砂むし):おとな(中学生以上) 1080円、こども(小学生以下) 590円
休業日:7月、12月の第2火曜日、荒天時
アクセス:JR指宿線指宿駅から徒歩約20分
URL:http://sa-raku.sakura.ne.jp/
指宿温泉を代表する“しお湯”、公衆浴場「いぶすき元湯温泉」
「指宿温泉」発祥の温泉といわれるのが摺が浜にある公衆浴場『いぶすき元湯温泉』です。温泉は塩分濃度の濃い“しお湯”で、昔ながらの風情を残す木造の湯屋です。
いぶすき元湯温泉
住所:鹿児島県指宿市湯の浜5-19-25
電話番号:0993-24-2701
営業時間:12:00~21:00(8:00~10:00は要予約)
入浴料:おとな(中学生以上) 350円、こども(小学生以下) 100円、幼児(未就学児) 無料
アクセス:JR指宿駅から徒歩で約15分
大規模スーパー銭湯「指宿こころの湯」
「指宿温泉」には、多くの日帰り温泉(公衆浴場)がありますが、最も大きい施設が『指宿こころの湯』です。12の内湯、露天風呂付きの男女別大浴場、4カ所の貸し切り風呂、それにフィンランド式サウナ、4種の岩盤浴、アイスルーム、オンドルルームなどがあります。エステや食事処も設備されていて、まさしくスーパー銭湯です。ビジネスホテル並みの宿泊料金で泊まれる『指宿こころの宿』も併設されています。独自の泉源を持ち、泉質は塩化物泉、泉温47.6℃でほとんど無色透明です。
指宿こころの湯
住所:鹿児島県指宿市東方9236-7
電話番号:0993-24-1126
営業時間:11:00~22:30(最終受付22:00)
入浴料(大浴場):
おとな(中学生~) 平日 650円、土日祝休日 700円
小学生 平日 300円、土日祝休日 320円
幼児 通年 100円
※家族風呂、岩盤浴等別途料金
指宿こころの宿
住所:鹿児島県指宿市東方9227-6
電話番号:0993-23-0810
アクセス:JR指宿枕崎線指宿駅下車、タクシーで約10分
「二月田温泉 殿様湯」は島津の殿様が愛した温泉
摺が浜の島津家屋敷はどこにあったのか不明ですが、「指宿温泉」にあったもうひとつの屋敷跡は「二月田温泉」にあります。島津家27代藩主島津斉興(なりおき)によって建てられたもので、温泉が使われている浴槽は摺が浜から移設されたものといわれています。浴槽やタイルが昔もまま保存されています。隣接して公衆浴場『二月田温泉 殿様湯』があり入浴できます。浴槽には島津家の家紋が入っていますが、これは新たに造られたものです。
二月田温泉 殿様湯
住所:鹿児島県指宿市西方1408-27
電話番号:0993-22-2827
営業時間:7:00~21:00(受付終了20:30)
入浴料:おとな(中学生以上) 350円、こども 100円、幼児: :50円
定休日:金曜日(祭日、お盆、年末年始の金曜日は営業)
アクセス:JR指宿枕崎線二月田駅から徒歩で約7分
2種類の温泉が楽しめる「弥次ヶ湯温泉」
「弥次が湯温泉」には1892年(明治25年)創業の公衆浴場『弥次ヶ湯温泉』があります。浴室は加水ができない“弥次が湯”と加水ができる“大黒湯”があり、泉質はいずれも炭酸を含んでいて少し泡が出ている塩化物泉です。木造の2階建てで、2階には休憩室があります。
弥次ヶ湯温泉
住所:鹿児島県指宿市十町1068
電話番号:0993-22-3030
営業時間:8:00~21:00
入浴料:おとな 350円、小学生 100円、幼児 50円
定休日:木曜日
アクセス:JR指宿枕崎線指宿駅から徒歩で約15分
指宿では珍しいアルミイオンを含む温泉「村之湯温泉」
「村の湯温泉」 には公衆浴場『村之湯温泉』があります。江戸時代からある温泉です。第2次世界大戦の時は海軍兵士たちがこの湯に浸かってから戦地に向かったそうです。源泉は複数あり、泉質は指宿温泉では珍しい含アルミニウム-塩化物泉(旧泉名アルカリ性明ばん泉)で、色は天候や気温などによって黒褐色や灰褐色と変化します。
村之湯温泉
住所:鹿児島県指宿市大牟礼3-16-2
電話番号:0993-23-3713
営業時間:8:00~22:00
入浴料:おとな 350円、こども 100円、幼児 50円
定休日:年中無休
アクセス:JR指宿枕崎線指宿駅から徒歩で約15分
新たに掘削された温泉もほとんどが高温の塩化物泉
昭和初期に「指宿温泉」を構成していた8湯のうち「柴立温泉」「潟口温泉」「湊温泉」「朝日温泉」は、現在温泉施設として使われていません。
「柴立温泉」と「潟口温泉」は、いずれも江戸時代後期に島津藩が築いた港があり、昭和初期頃まではかなり賑わっていたと『三国名勝図会』に記されています。「柴立温泉」のあった宮ヶ浜は江戸時代初期まで指宿の地を統治した松尾城があり、指宿の中心地だったことがうかがえます。近くには徳川13代将軍家定(いえさだ)に嫁ぎ、幕末から明治に波乱の人生を送った篤姫(あつひめ/天璋院[てんしょういん])の実家である今和泉(いまいずみ)島津家の屋敷跡があります。
「指宿温泉」は、8湯のほかにも温泉施設が独自に所有する泉源が多数あり、海岸沿いには大きな温泉宿が並んでいます。いずれの施設もやはりメインは温泉。館内に“砂むし”施設を所有するところも多く、設備がないところは砂むし専門施設の優待券が発行されるなど、温泉三昧の休日を過ごせます。
山川エリアの伏目海岸に温泉リゾート「ヘルシーランド」
「山川温泉」は、指宿駅からひと駅南の山川駅近くにある温泉で、温泉のテーマパーク『ヘルシーランド』があります。敷地内には砂むし温泉「砂湯里~さゆり~」や「温泉保養館」、露天風呂「たまて箱温泉」、スイミングスクール、レストランなどがあり、開聞岳を間近に眺められる美しい海岸で一日中温泉を楽しめます。伏目(ふしめ)海岸にあるため“伏目温泉”とも呼ばれています。
伏目海岸には、『山川製塩工場跡』があります。この製塩所は1943年(昭和18年)から20年間にわたって、海岸に湧く温泉熱を使って塩を作っていました。現在は操業していませんが、海岸や跡地からはもくもくと湯気が立ち上っています。
ヘルシーランド
露天風呂「たまて箱温泉」
住所:鹿児島県指宿市山川福元3292
電話番号:0993-35-3577
営業時間:9:30-19:30(受付19:00まで)
入浴料:おとな(中学生以上) 510円、こども(小学生以下) 260円
※砂むし温泉「砂湯里」セット券/おとな(中学生以上) 1240円、こども(小学生以下) 620円
定休日:木曜日(祝・祭日の場合は翌日)
泉質:ナトリウム・塩化物強塩泉
泉温:100℃(加水)
砂むし温泉「砂湯里」
住所:鹿児島県指宿市山川福元3339-3
電話番号:0993-35-2669
営業時間:9:00~17:30(受付は16:30まで)
入浴料:おとな(中学生以上)830円、こども(小学生以下) 460円
※たまて箱温泉セット券/おとな(中学生以上) 1240円、こども(小学生以下) 620円
定休日:年中無休 (悪天候による臨時休館あり)
泉質:ナトリウム・塩化物泉
泉温:102℃(飲用不可)
温泉保養館
住所:鹿児島県指宿市山川福元3292
電話番号:0993-27-6966
営業時間:10::00~21:00(受付は20:30まで)
入浴料:おとな(中学生以上) 340円、こども(小学生以下) 170円、3歳児未満は無料
温水プール:おとな(中学生以上) 510円、こども(小学生以下) 260円、3歳児未満は無料
定休日:火曜日(祝・祭日の場合は翌日)
泉質:ナトリウム・カルシウム塩化物・硫酸塩温泉
泉温:87℃(加水)
レストラン「地熱の里」
住所:鹿児島県指宿市山川福元3292(保養館隣)
電話番号:0993-35-3434
営業時間:
月・水・木/11:00~15:00(オーダーストップ 14:30)
金・土・日祝/11:00~15:00(オーダーストップ 14:30) 17:00~21:00(オーダーストップ 20:15)
定休日:火曜日
アクセス:JR指宿枕崎線山川駅から路線バスで約15分
URL:http://ppp.seika-spc.co.jp/healthy/
美しい火口湖のほとりに湧く「区営鰻温泉」
「鰻温泉」は、火口湖の鰻池に湧く温泉で、指宿では珍しい単純硫黄泉です。『区営鰻温泉』は、鰻池のほとりに建つ木造の公衆浴場で、男女別の内湯だけのシンプルな造り。周辺では噴気が立ち上り硫黄の匂いが漂っています。西郷隆盛が湯治していたことがあるという長い歴史のある温泉です。
区営鰻温泉
住所:鹿児島県指宿市山川成川6517
電話番号:0993-35-0814
営業時間:8:00~20:00(受付終了19:30)
入浴料:おとな(中学生以上) 200円、小学生 100円、乳幼児50円
定休日:毎月第1月曜日(※5月の定休日未定)
アクセス:JR指宿枕崎線山川駅から車で約15分
古代人も恩恵を受けた火山の恵みがロマンを誘う「指宿温泉」
「指宿温泉」周辺には、登山も可能で薩摩富士と称えられる美しい円錐型の稜線を持つ活火山「開聞岳」、開聞岳の眺望が美しい岬「長崎鼻」、幻の怪獣“イッシー”が出没すると噂されるカルデラ湖「池田湖」、旧火口跡や噴気孔など火山国日本ならではのダイナミックな風景が広がっています。さらに縄文時代から平安時代まで続いたとみられる「橋牟礼川遺跡(はしむれがわいせき)」をはじめとする130カ所にもなる遺跡など、指宿には古代日本人の痕跡が数多く残されています。
古代人が見た同じ風景に感動し、多分入ったであろう温泉に癒やされる「指宿温泉」。ここだけでしか味わえない楽しみ方がいっぱいです。
基本情報
指宿温泉
住所:鹿児島県指宿市
問い合わせ先:いぶすき観光ネット(指宿市観光協会)
電話番号: 0993-22-3252
アクセス:
公共交通機関/JR指宿枕崎線指宿市内各駅
車/(指宿駅まで)指宿有料道路頴娃(えい)ICから県道17号線、28号線、国道226号線経由約40分