【日本と宇宙】宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号が最終任務を終えて地球へ帰還

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2020年8月19日に任務を完了し、ISS(国際宇宙ステーション)から離脱した日本の無人宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号が、翌20日にISSからの不用品を積んで地球へ帰ってきました。8月19日午前2時35分ごろISSを離れた「こうのとり」9号は、8月20日午後4時7分に大気圏に突入したのが確認されました。飛行時間は約37時間32分、その後「こうのとり」9号は大気圏内で燃え尽きました。「こうのとり」の運用は今回が最後となります。 ※日時はいずれも日本時間です

(写真提供:JAXA)

ISSとの物資補給で活躍した「こうのとり」

宇宙ステーション補給機「こうのとり」は、アメリカのスペースシャトルが引退して以降、アメリカの民間宇宙輸送機「ドラゴン」とともに、ISSへ物資を運ぶ重要な役割を担ってきました。

(写真提供:JAXA)

「こうのとり」と愛称が付く前の第1号機(HTV1)が打ち上げられたのは2009年です。

「こうのとり」は、「こうのとり」用に開発された日本最大の打ち上げ用ロケットH-ⅡBとともに種子島宇宙センターから宇宙へ飛び出します。今までの打ち上げ回数は9回、そのすべてを成功させて任務を完了しました。 ロケットの打ち上げは三菱重工が担当し、ロケットから切り離された「こうのとり」のコントロールはJAXA(ジャクサ=宇宙航空研究開発機構)が担っています。打ち上げられたH-ⅡBロケットは、太平洋上に落下し任務を終えます。

1回150億かかる「こうのとり」プロジェクト

(写真提供:JAXA)

ただ「こうのとり」1機を打ち上げるのに100億から150億円の費用がかかるといわれています。しかもすべての機材が使い捨て状態です。せめて「こうのとり」だけでも回収し、再利用できれば良いのですが、日本の技術と予算ではまだそこまでできていません。

2018年の「こうのとり」8号では、ISSで積み込んだカプセルを高度600キロメートルで「こうのとり」から分離し、回収には成功していますが、「こうのとり」本体は大気圏で燃え尽きました。

アメリカでは民間企業SPACE X社が、2010年には宇宙船として開発した「ドラゴン」の打ち上げ、帰還に成功し、2012年からはISSへの物資補給も担当するようになりました。2017年6月には帰還した「ドラゴン」を再使用しての運用を開始しています。

さらに、2015年には打ち上げ用のロケット、ファルコン9の第1段ロケットを逆噴射し陸上の着陸場へ軟着陸させることに成功。ロケットの再利用も可能になりました。実際に再利用された「ドラゴン」とファルコン9を使い2017年には打ち上げ、大幅なコストダウンに成功しました。 こういった現状を踏まえ日本でも2014年より「こうのとり」やH-ⅡBロケットに代わる機材の開発が始まっており、コストを抑えた新補給船HTV-XやH-3ロケットの開発が進められています。H-3ロケットはロケットエンジンの開発は終了し、2020年度中には打ち上げ実験が行われる予定です。

生の果物もISSへ届けた「こうのとり」9号

(写真提供:JAXA)

最後のフライトとなる「こうのとり」9号(HTV9)は2020年5月21日に、種子島の宇宙センターから相棒のロケットH-ⅡBによって宇宙へと飛び立ちました。その後H-ⅡBから切り離された「こうのとり」9号は順調に飛行し、5月26日にISSにドッキングしています。それから約1か月半に渡ってISSにドッキングしたまま地球を周回し、積んでいた荷物を下ろし、ISSで不要となった機材や廃棄物を積み込んで、8月19日にISSから分離され地球へ向かいました。

「こうのとり」で運ぶ食料品の中で宇宙飛行士たちに喜ばれているものに、日本各地の生のままの野菜や果物があります。9号機では宮城県のパプリカ、群馬県のキウイフルーツ、愛媛県の河内晩柑、清美オレンジ、レモン、佐賀県の温州ミカンです。宇宙で食べるものといえば、フリーズドライの食品やレトルト食品など、いわゆる“宇宙食”が思い出されますが、こんな生ものも食べられています。

ただし、持って行くにはかなり基準が厳しく、生食が可能なこと、打ち上げ前4週間種子島宇宙センターで保存が可能なこと、除菌後細菌数が限りなくゼロに近いこと(10,000CFU/g以下 )、種子を食べる食品ではないこと、果汁等が飛び散らないこと、アレルギー食品ではないことなどの条件があります。ちなみにCFU/gとは、食品衛生法上の微生物規格基準で、一般的な食品ではアイスクリームが100,000CFU/g、生食用かきが50,0000CFU/gです。

大幅なコストダウンが計られる「こうのとり」の後継補給船HTV-X

(写真提供:JAXA)

「こうのとり」の積載量は6トンほどで、ISSへは、日本ばかりでなく世界各国から依頼された食料品や実験機器、修理部品、生活用品などを積載しています。この積載量はアメリカの「ドラゴン」より大きく、9号機までで約40トンもの物資を運びました。帰りの不用品も6トンほど積み込めます。

現在開発中のHTV-Xは「こうのとり」とほぼ同様の積載能力があるにもかかわらず、大幅なコストダウンが計られ、今までできなかった冷蔵品宅配サービスのような、低温を維持しなくてはいけない実験機材などにも対応できるようになります。

新HTV-Xも「こうのとり」と同じような一方通行の補給船で、残念ながら宇宙と往復できる宇宙船とはなりませんが、今後できるであろう宇宙基地や宇宙リゾートへの補完機材として活躍が期待されます。ゆくゆくは日本自前の有人宇宙船ができると良いのですが。期待しましょう。